Little AngelPretty devil
           〜ルイヒル年の差パラレル

      “決戦を前にして”
 


チョコレートというのは本来は苦いものだった。
大航海時代に南米へ運んだ探検家らにより欧州へと持ち帰られ、
その滋養の高さから、寒冷地に多い疾患への栄養補給にと、
主には飲み物として王侯貴族らに重用されていたが、
いかんせん、濃厚であればあるほど苦くて飲みにくい。
そこで、砂糖やミルクを足して足して甘くしたところ、
その甘さと風味のよさから、
女性や子供にも人気を博して今に至るとされている。

ちなみに、イギリスで紅茶がああまで普及したのも、
やはり大航海時代にインドからやって来た当時、
英国内では工業生産も爆発的に広まっていて。
労働者だった工員らへ“疲労回復になるから”と、
ミルクや砂糖を足して飲むよう奨励されたからだとか。
同じように南国から来たコーヒーが、なのに普及しなかったのは、
英国の水が硬水だったので
美味しく淹れられなかったためだ…という説を聞いたことがあります。



 「最近になって、
  カカオ含有率の高い、苦いチョコを、
  ギャバがどうのって言って売り出してっけど。
  実は、大昔の形態に戻っただけなんだな。」

 「ほえぇ〜〜。」

戻ったは言い過ぎだが、まま、そういうことには違いなく。

 「何でも天然がいいってゆわれてるけど、
  チョコもだとは知らなかったよぉ。」

オルガンチックってゆうんでしょ?
それも言うなら、オーガニックだ…という。
相変わらずの漫才みたいなおまけつきながら、
ちみちゃい小学生にしては
なかなかうがった話を交わしている二人連れであり。

 「じゃあじゃあ、
  やっぱりチョコって食べたら元気になるんだ。」

 「まあ そういうことだな。」

体調が悪そうだった進さんへ、
練習への“禁止令”を出してたセナくん。(前作品 参照・笑)
蛭魔くんから いい知恵をもらったようで、
じゃあやっぱりチョコのお菓子を作ってあげようと、
小さなお手々をぐうにして、
胸の前にて ぐぐっと握りしめて見せてから。

 「あ、でも、
  チョコレートだけじゃなく、あんこも昔は苦かったのかな?」

進さんはどっちかって言うと
ケーキやチョコより、
鯛焼きとか回転焼きの方が好きだとか。

 「さあなぁ。」

あっちも作るときにたっくさん砂糖を入れはするけどと、
そこまでは御存知だったものの。

 「…vv」

ワクワクっと大きなお目々を輝かせ、
お預けが解かれるのを待ってる
子犬のようなお顔で見つめてくるセナくんに気がついて。

 「…いくら俺でも、何でもかんでも知ってる訳じゃねぇぞ。」

口元 尖らせ、期待されても知らないことは知らねぇと言い返しつつ、
でもでも…ググッてはくれそうな気配。
メタルブラックのカバーをつけたスマホ、
ブルゾンのポケットから取り出し掛かっておれば、

 「偉いなぁ、坊っちゃんたち。」

特製の釜を据えた軽トラックの傍ら、
雨ざらしになって元はどんな色だったんだかも判らない、
ひび割れたベンチに腰掛けたおじさんが、
そんなお声をかけて来た。
いいお日和の児童公園は、
朝からの雨も上がった今は明るい陽が照っていて、
風さえなければ この何日かよりずんと暖かい。
そんな中、
さっきから香ばしい良い匂いがするのは此処からだったかと、
坊やたちが ありゃまあと目を見張る。

 「あ。おいも屋さんだ。」

細かい石を積めた焼くところと、
その下には薪を燃やす釜とを備え。
さつまいもを入れている金属の箱も含めてのどれもこれもが、
すすけてだろう色がすっかりと変わってて。
その年季の入りようから、
ずんと長いこと このお仕事をなさっていると伺えるのだが、

 「おじさん、きゅうけーですか?」

今日は朝方から雨だったし、
もしかして大雪になるかもなんて言われてもいたが、
結果としてはいいお日和だ。
お昼下がりという今の時間帯は、
売りどきからは ちと外れているかもだけれど。
何のこういうのは別腹とも聞くし、
結構 売れそうな頃合いだろうに。
運転席に積まれた
売り声用だろうラジカセも黙ったまんまだし、
何より、おじさん自身が少々疲れておいでに見えて。

 「なに、このところ
  寒かったり暖かくなったりが忙しかったんでな。」

お返事をしてくれつつ、だが、
身を起こし掛かって“あ痛たたた…”という小声が、
思わずだろう、口からこぼれたのを聞き逃さなんだのが、

 「おじさん、もしかして腰がコキッてゆったですか?」

ふわふかなくせっ毛をひょこんとはねさせ、
小さなお手々で身を起こすのをお手伝いするセナくんで。

 「セナの川越のおばさんもね、
  お腰が時々 クキッてなったら動けなくなっちゃうのね。」

そうなったらお医者に行ってもどうにもならない、
湿布や痛み止めくらいはくれるけど、
3日ほどあんせーにして じっとしてるしかないんだよって。
もしかして そんなになったですか?と、
何とも甲斐々々しい様子なのへ、

 「おやおや、そういうことまで詳しいんだねぇ。」

こりゃあ油断した、
ただのおサボリだよって言うつもりだったんだけどと、
おじさんたらようよう陽やけしたお顔を困ったようにほころばせ、

 「此処までは何ともなかったんだけどもね。
  さあ、売り始めよかって車から降りて、
  釜の蓋を開けた途端に グキッと来てねぇ。」

じっとしていて収まったら帰ろうかって思ってたんだがと、
苦笑をしなさるおじさんだけど、

 「…車を放っては帰れねぇもんな。」

何となれば救急車を呼ぶとかタクシーを呼ぶこともかなおうが、
この車という商売道具を置き去りには出来なくての、
此処に居続けてたおじさんではないのかと。
そっちへは妖一くんの方があっさりと気がつく。
だって、いくら陽が照ってたって風は冷たい。
お客も呼ばぬまま、なのにお外にずっといるなんて不自然だと、
そっちから持って来ての出した結論だったらしく。

 「おじさん、ちっと待っててな。」

あんこの起原をググるのにと引っ張り出したスマホだったが、
そっちはちょっとタンマなと、
別の、手慣れたところへと、お電話かけ始める子悪魔様。

 「…あ、ルイか?
  今日の差し入れは焼き芋でどうだ。
  判ったら今すぐハコ(四輪)で迎えに来い。
  予備の運転手も乗っけて来いよ?」

何だなんでだと、訊き返すお声も漏れ聞こえたもんの、
ガッコの帰り道の児童公園だとだけ言い置くと、
あっさり切ってしまう強引なところが相変わらず。

 「芋のほうは
  凄んげぇ食うのがたんといる連中に買い占めさせっから。
  そのついでに車ごと送ってくから安心しなよ。」

可愛らしいベージュのダウンのブルゾンや
スキーパンツみたいな
スポーティなデザインのボトムなのも消し飛ぶような、
ちょみっと凶悪なお顔になって、
ケケケッと高らかに笑った坊やだったけれど、

 『まあな、そこに当事者のおじさんもいたんなら、
  こまごまと事情を説明すると、
  気の毒がられるのへ気を遣うんじゃないかって
  そんな風に思ったんだろうよ。』

葉柱のお兄さんには、そこまでちゃんとお見通しだったようで。

 『俺らが全部買ってもいいが、
  一応はいつもの販売経路を通った方がいんじゃね?』

食い盛りがたんといるから、これでも足りねぇかもだけど、
まだ少し、春になっても寒いうちは
こっちの商売も続けなさるんだろうしと。
さすがは伊達に年上じゃない、
もう少しほど深いところのお知恵を出してくださる
見かけは怖いが、頼もしいお兄さんたちが到着するまでの間、

 「よっし。じゃあルイが来るまで、俺らで売るぞっ。」
 「おおーっ!」

トングと新聞紙ねぇか、おじさん。
あ、セナ、お前猫肌だろが、呼び込みだけでいいぞ、と。
小さな司令官殿、
愛らしい売り子さんを伴っての、腕まくりをして奮戦開始。
聖バレンタインデーを前に、
別口の天使たちが舞い降りた、2月の13日だったそうでございます。





     〜Fine〜  13.02.13.


  *今年のバレンタインデー、
   チョコレートを意中の人へ贈りますか?という、
   アンケートの結果が某新聞に載ってたそうで。
   何と90%もおいでだと、MCのかたがたが驚いてましたが、
   それを訊いた相手は
   クッキングスクールの生徒さんたちだったそうなので。
   微妙に偏った結果なんでないかい?と感じた私は、
   相当にひねくれているのでしょうか?
   焼き芋の売り子係は
   自分で何か作る訳じゃないので散らかす恐れは無さそうで。
   実は不慣れな鬼軍曹殿も、十分役に立ったと思われます。
   ついでだからと、
   明日のチョコにも刻んで入ってたらご愛嬌ですが。(おいおい)

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